名もなき声に耳を澄ます

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11/12-14「秋の対話」@法然院

By Yu Koseki | 2024.05.28

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11/12-14「2023 秋の対話」を京都法然院にておこないました

カンファ・ツリー・ヴィレッジでは、年2回(春・秋)、国内外からゲストをお迎えし、対話の場を開きます。

今回の対話は、4月に行われたキックオフイベント「はじまりの集い」@西本願寺(レポート記事)に続き、第2回目の開催です。

テーマは「倫理」。<根本的な問い>を携え、ブッダ・ダルマを軸に多様な視点を持ち寄り、3日間にわたって対話を深めます。
ひとつの答えを出すことにとらわれず、対話によって生成される道筋から、未来世代へ提供できる視点を探りました。

<根本的な問い>
私たちが今日直面している倫理をめぐる課題をいかに捉え直すことができるか、そして、未来世代に対しブッダ・ダルマを通じていかなる「もう一つの」視点を提示することができるか。

<Fundamental Question>
How could we reframe common ethical issues we have been facing until today and what kind of alternative viewpoints could we offer for the future generations through Buddha Dharma?

対話の場は、京都の名刹法然院。法然上人ゆかりの名刹です。
木々に囲まれた石段をのぼると、苔の覆う茅葺の山門が迎えてくれます。山門をくぐると、両脇には美しい白砂壇ともみじの樹々。

3日間、厳かな本堂で朝のおつとめをし、趣ある大書院をお借りして対話を重ね、場の力がいかに重要かを実感しました。
ご住職をはじめ、法然院の皆さまに心より感謝申し上げます。

【11/12 - Day1-】

法然院本堂にて、ご住職に朝のおつとめをしていただきました。
ご本尊は阿弥陀如来坐像。厳かで心の鎮まる時間と空間。

阿弥陀さまの前の生菊が印象的で、こちらは二十五菩薩(来迎の際に阿弥陀仏にお供する菩薩)を象徴する二十五の散華とのこと。

ご住職のご法話で、特に次のことばが胸に響きました。
カンファ・ツリー・ヴィレッジに対する激励であり、今後の支えになるお話をいただいたように感じます。

それぞれが何かを愛して生きるのがこの世です。執着してしまうのがこの世なのです。わかり合えて当たり前ではなく、わかり合えなくて当たり前です。少しでもわかり合えたら有難いことで、わかり合うためには武力に訴えず、対話を重ねていくことです。素晴らしい対話の場となるよう願います。

対話のはじまり

今回は、メインスピーカーとして、スティーブン・バチェラーさん(仏教思想家)、一ノ瀬正樹先生(武蔵野大学教授)を迎え、さらに、ゲストスピーカーをDay1, Day2にお招きして、3日間対話を重ねます。

◇ゲストスピーカー(11/12)
 森島 豊先生(青山学院大学教授)

森島先生にはアメリカからオンラインにて、キリスト教の視点から「倫理」についてご講義いただきました。

午後はメインスピーカーのみで対話を進めます。
キリスト者として現代を生きる森島先生から多くの気付きを得て、仏教者・キリスト者・西洋哲学者の立場から、宗教の現代的意義や状況倫理などについて考察することができました。

【11/13 - Day 2 -】

2日目のゲストはピコ・アイヤーさん。法然院にお越しくださり、対面での対話が叶いました。
朝のおつとめからご一緒いただきます。

お寺の朝掃除

法然院の玄関には、「一掃除 二勤行とや 落ち葉掃く」と書かれた大衝立があります。
まずは「掃除」、そして「勤行」、そう説きながらも「落ち葉掃く」。
浄土宗の修行道場として起こった法然院において、なによりまず掃除が大事であり、掃除がすべてと説かれているように感じます。

掃除は、カンファ・ツリー・ヴィレッジの大切な要素でもあり、訪問先では必ず掃除の時間を設けます。
宗教や言葉の枠を超えて共に行える仏道であり、身体を使って掃除をするうちに、心が整い自他の境界線も溶けていきます。

2日目の対話のはじまり

◇ゲストスピーカー(11/13)
 Pico Iyerさん(エッセイスト)

ピコ・アイヤーさんは、世界各地を周りながら執筆や講演をされるエッセイストで、日本にも拠点を持っておられます。
ダライ・ラマ法王と関係も篤く、仏教思想にも造詣の深い方です。

世界を旅するピコさんからは、幅広い知見と感性から「祖先」をキーワードに宗教や過去についてお話いただき、そこから異文化間の複雑さや、歴史が現在や未来に与える影響へと対話が広がりました。

ピコさんとの対話を引き継ぎ、午後はメインスピーカーのみで対話を続けます。

今回のテーマでもある宗教と倫理の関連性から、よき祖先のあり方や責任まで話は及び、カンファ・ツリー・ヴィレッジの中心にある問いを探る時間にもなりました。

いかにして私たちはよりよき祖先になれるか
How can we become better ancestors?

【11/14 - Day 3 -】

3日目も朝のおつとめから始まります。

お寺の本堂という長い時間軸を感じられる場所で、思考や心身の疲れをリセットし、毎朝気持ちを新たに対話に臨めることは大変有難いことでした。

最終日の対話のはじまり

最終日はメインスピーカーで2日間の対話を振り返った上で、さらに発展的な議論が交わされました。

ゲストの視点を内包しながら、現代世界で直面している倫理的問題をいかに再構築できるか、そして、未来世代にどのような代替的視点を提供できるかという<根本的な問い>に立ち返ります。

1日5時間に及ぶ対話も3日日。
深い集中力を持続しながら、休憩時間も対話は続きます──

終盤は宗教と倫理をめぐり対話が深まり、最後は3日間の感想や感謝が述べられ終了しました。

*

ここでの対話は一度結びとなりますが、問いをめぐる対話に終わりはありません。
カンファ・ツリー・ヴィレッジの対話から、さまざまな場所で対話が生まれたら幸いです。

なお、今回の対話は後日まとめて出版予定です。
詳細が決まり次第、こちらのホームページでもお知らせいたします。

どうぞお楽しみにお待ちください。

<メインスピ―カー>

Stephen Batchelor

スティーブン・バチェラー

1953年イギリス・スコットランド生まれ、ロンドン育ち。1972年にインドへ移住し、チベット仏教、韓国における禅での修行、ヴィパッサナー瞑想にも触れる機会を持つ。1974年、Geshe Ngawang Dhargyey師の元で出家し、チベット仏教を学ぶ。1981年に韓国へ移住、クサン・スニム老師の禅院に入る。その後、いくつかの国を訪ね、イギリスに戻る。シャーファム財団やガイア・ハウス等での活動を経て、2015年にBodhi Collegeを創設。欧米におけるセキュラーな仏教の普及に大きな影響を与える。
著書に、『信じるところのない仏教(1977年)』、『マーラ・悪魔と共に生きる(2004年)』、『絶対を信じない仏教徒の告白(2010年)』、『仏教のあとに:現代に即した仏法を再考する(2015年)』、『これは何か?現代人のこころための古の問い(2019年、Marine Bachelorとの共著)』、『一人でいるというアート(2020年)』などがあり、新刊を準備中。日本語訳書は『ダルマの実践(四季社、2002年、藤田一照訳)』、原著は1998年『Buddhism without Beliefs-a contemporary guide to awakening-』である。

一ノ瀬 正樹

1957年生まれ。茨城県土浦市出身。先祖のルーツは会津。土浦第一高等学校卒業、東京大学文学部哲学専修課程卒業、東京大学大学院人文科学研究科博士課程(哲学専攻)修了。博士(文学)。現在、東京大学名誉教授、オックスフォード大学Honorary Fellow、武蔵野大学教授、日本哲学会会長。
著書に、『死の所有』(東京大学出版会)、『確率と曖昧性の哲学』(岩波書店)、『放射能問題に立ち向かう哲学』(筑摩選書)、『英米哲学入門』(ちくま新書)、編著に『東大ハチ公物語』(東京大学出版会)、『福島はあなた自身』(福島民報社)、論文に’Normativity, probability, andmeta-vagueness’ (Synthese 194:10)などがある。

<主催・司会>

西本 照真

武蔵野大学学長。1994年に東京大学大学院人文科学研究科印度哲学専攻博士課程を単位取得後退学。1996年に博士(文学、東京大学)。1997年に武蔵野女子大学(現 武蔵野大学)文学部人間関係学科専任講師に就任。武蔵野大学附属幼稚園長、学校法人武蔵野大学理事、武蔵野大学人間関係学部(現 人間科学部)学部長、同大学大学院仏教学研究科長等を歴任。 著書に「三階教の研究」「『華厳経』を読む」等多数。

松本 紹圭

僧侶/Ancestorist。東京大学哲学科卒、インド商科大学院(ISB)MBA。世界経済フォーラム(ダボス会議)メンバー。株式会社Interbeing代表取締役。武蔵野大学客員教授。未来の住職塾の立ち上げ、現在まで講師を務める。著書に『お坊さんが教えるこころが整う掃除の本』、翻訳書『グッド・アンセスター わたしたちは「よき祖先」になれるか』等。

<対話の場>

法然院

善気山 法然院 萬無教寺

鎌倉時代の初め、法然上人が弟子とともに、念佛三昧の別行を修した草庵が起こり。江戸時代初期の1680年、知恩院第三十八世萬無和尚は法然上人ゆかりの地に念佛道場を建立することを発願し、現在の伽藍の基礎が築かれた。元は浄土宗の一本山であったが、1953年(昭和28)に浄土宗より独立、単立寺院となり現在に至る。